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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)33号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は添附の別紙記載のとおりであつて、これに対する判断は次のとおりである。

町村制第二五条(現在は地方自治法第四一条)は議員候補者の氏名の外他事を記載した投票はこれを無効とする旨を規定している。その趣旨は投票の秘密を守る為であることは言うまでもない。しかしながら投票の記載文字が常に正確であることは到底期待し得ないことであつて、記載された文字が不明確であり、或は正しい文字に比して字画に誤りがあつても選挙人が何人を選挙しようとするかの意思があらはれている場合は、その意思を尊重してこれを有効な投票としなければならない。投票に記載された点、字画等が正確な文字に比して余分のものである場合に、若し意識的な記載と認められるならば、上告理由に言うように無記名投票の趣旨に反する場合もあり得るから、これを無効な投票と判断しなければならないけれども、これら余分の点、字画等をいたづらに憶測して意識的な他事記載と解し、その投票を無効とすることは許されない。而して具体的な点や字画を意識的な他事記載と認めるかどうかは投票そのものについて原審の自由な心証によつて判断すべきことである。

本件係争の二票について原審は検甲第一号証については鑑定人の鑑定に基づいて、その氏名の下の記載を「君」と判読し得るものとし、その「君」の字に虚画のあることを認め、その態様から見て不用意の間に書かれたものと認定し、検甲第二号証については「、」の位置、形状、運筆の順序等から草冠の起点として書いたものと認定し、いづれも意識的な他事記載と認めないで、有効投票としたのであつて、此の認定については実験則違反其の他何等違法はない。従つて原判決には所論の様な違法はない。

よつて、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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